サンペドロララグーナをあとにした僕は、一番安く行けるローカルバスに飛び乗り、「エルインヘルト農園」を目指した。
乗客は僕を除けば現地の人達だけだった。
「時々山賊がでる」と言われる山をいくつか越えて、20時間後ようやく農園の起点となる町ウエウエテナンゴに到着した。
鋭角な山々に囲まれた、小さい集落のような町だ。
しばらく歩いていくと、寂れたホテルを見つけた。その日はここで一泊することにした。
ホテルのオーナーが英語を話せたので、エルインヘルト農園について聞いてみたら、「知ってるよ」とのこと。「コーヒー農家は大体友達」らしい。
農園は、ここからさらに山を上っていったところにある、と親切に教えてくれた。
翌日、ホテルのオーナーからもらった手描きの地図を片手に出発。
今度はバスではなく、小回りの効くパブリックバンを乗り継いで、上へ上へと上っていく。なんとなく息苦しい気もした。どうやらかなり標高は高そうだ。
最後は個人のトラックの荷台に乗せてもらい、30分ほど走ったところで、ついに農園にたどり着いた。
人生初のコーヒー農園「エルインヘルト」。
入口の門を開けると、違った世界がそこにあるようだった。
心地よい乾いた風が身体を通り抜け、遠くから聴いたことのない鳥の鳴き声が聞こえてくる。取り囲む多種多様な植物たち。
「なんか、楽園みたいだ…」これが最初の印象だった。
農園は迷子になりそうなほど広く、門からずいぶんと歩き続けて、ようやくオフィスらしき建物に着いた。中にいた人が僕の姿を認めて扉を開けてくれた。
その人こそ、あの農園主のアルトゥーロさんだった。
僕は頑張ってスペイン語でたどたどしく話そうとしたが、「英語話せる?英語でいいですよ」と爽やかに言ってくれた。
スペイン語は使う必要もなさそうなくらい、彼は流暢な英語を話した。
早速、めちゃくちゃ爽やかなアルトゥーロさんに農園内を案内してもらった。
農園内には、生産処理を行うウェットミルだけでなく、ドライミル(乾燥させた豆を脱穀し、生豆をスクリーニングし、麻袋に詰め出荷準備するところまでの行程を行う施設)も備えてあった。
種から出荷までの全ての行程を一つで行う農園というのは、世界的にも珍しい。
それどころか、ここには焙煎室、カッピングルームまであり、国内用の豆のパッキングまで自社で行っている。
いきなり、世界でもトップオブトップの農園に来てしまったようだ。
僕はついに夢見たコーヒー農園に自分が来ているということと、真新しい情報が全感覚を通して滝のように押し寄せてくるという状況に戸惑っていた。
続く