朝食を終えると、僕らはいつものカッピング会場に集合した。
フィリップの説明によると、この日は最後に確認のためもう一度カップが準備され、カッピングしながらオークションを行うとのことだった。
この日はオークションロットを提出したすべての生産者たちが来場していた。
彼らは会場の中に入れないため、会場の外で待機。
窓越しにカップが並ぶテーブルにお湯が注がれていくのを緊張の面持ちで見つめている。
これまで時間を共にしてきた他のバイヤー達とも、今日は朝からほとんど会話をしていない。静寂の中、豆を挽く音だけが会場内で響き渡っていた。
それぞれのカップ(計23カップ)の隣に、バインダーに挟まれた用紙があった。その用紙には、豆の情報と、会社名を書く欄、金額を書く欄がある。
事前に伝えられたオークションのルールは、
1. 欲しい豆があれば用紙に会社名と金額を記入する。
2. 複数記入しても良い。
3. すでに記入されているときは、その下にそれ以上の金額を記入する。
4. オークション終了時に一番下に記入されてある(つまり最も高値をつけた)会社がそ
のロットを落札できる。
6. 落札できるのは1人1ロットのみ。
7. 落札した人は、その時点で他のロットの用紙から会社名を除外される。
ざっくり説明するとこんな感じ。
ちなみに1ポンド15ドルからのスタート。
これがいったいどこまで上がっていくのか。
「では、開始します!」
皆の様子をうかがっていても仕方がないので、僕はとりあえず、点数を高くつけた上位4ロットに「BASKING COFFEE、16$」と記入して回った。
カナダ人のバイヤーが一つのロットの前に立ち、「俺はこのコーヒーが大好きだ。これはもはや俺のだ!誰もビットしないでくれ!!」と叫んでいた。
そんな無茶な。
もちろん誰も彼の言うことなど聞く耳持たず、最終的にそのロットは52ドルまで値があがることになる。そのカナダ人は割と早い段階でドロップした(笑)。
10分経過。
徐々に用紙には書き殴られた社名が連なっていく。
15ドルだったコーヒーがわずか数分で、30ドル、40ドルとなっていく。
皆が好むコーヒーはやっぱり似てくるようで、僕が高く評価した豆はどんどん値があがっていった。
ひたすら一途に一つの豆を追いかけ続けるか、それとも競争を避け、大穴を狙うか・・・。
他のバイヤーに「どの豆狙ってんの?」と聞いても、本音は聞き出せるわけもない。皆がそれぞれに思惑があり、心理的な駆け引きが続く。
後半になっても全くビットしないバイヤー。全く躊躇することなく一つの豆にビットし続けるバイヤー。
ぞくぞくするような心理戦だ。じっとりとした汗がシャツにまとわりつき始めた。
最終的に僕は2つのロットに的を絞った。
一つは、もともと点数を高くつけていたナチュラルプロセスのロットで、再度カップを確認してもやっぱり卓越した何かがあった。
もう一つは事前のカッピングではあまり目立たなかったハニープロセスの豆だ。きっと他の豆に比べどちらかというと地味なフレーバーだからだろう。
値がそこまであがっていない。だけど注意深くカップをとってみると、とてもクリーンだし、酸もきれいだ。
この2つのカップを行き来しながら用紙を確認する。そのうちに、どちらも他のバイヤーとの一騎打ちになった。
僕がビットし、一回りして戻ってくるとまた相手もビットしている。
その繰り返しが何度か続いた後、僕はあることに気付いた。
僕がビットしているナチュラルプロセスのロットを競っているのはボストンの「Sparrow Coffee」のクリス。彼は別に本命があって、そちらのロットでは他の追随を許さず、最高値を彼が常にキープしていた。(そのロットはなんと52$まで価格があがっていた)
時間切れまではあと少しだ。
このまま進めば、彼が52$まで値のついたロットの方を落札することになり、オークションから抜けることになる。
そうすれば、自動的にこのロットを落札できるのは僕になる。
よし(笑)。
いやしかしまだ安心はできない。
万が一クリスが本命のロットで競り負けると、クリスは僕と競っている方のロットを獲得することになる。
頑張れクリス(笑)。
僕はそのロットが手に入らなかった時のため、もう一つのハニープロセスのロットも引き続きビットすることにした。こちらのロットではニューヨークのロースター、ジョンと競り合っている。
ジョンがビットしたのを確認すると、すかさず僕もビット。
クリスと競っているのと比べると、こちらはまだ価格は上がっていないので、気軽にビットできてしまう。
突然のライバル登場に焦るジョン。
僕がビットすると遠くで「Shit!」と聞こえる。
そちらをぱっと見ると紳士的な笑顔のジョン。
これが2、3回繰り返された。
・・・そしてついにタイムアップ!
クリスは無事に本命のロットを52$で落札。今回のオークションの中で2番目の高値だそう。
クリスがオークションから抜け、作戦通り僕はナチュラルプロセスのロットを42$で、落札することができた。
決して安くはないけれど、納得のいくものが落札できたと思う。張りつめていた糸がようやく緩まった気がした。
他のバイヤー達も、欲しいものが手に入った人もそうでない人もいたようだけれど、今回のメインイベントが終わって安堵した様子。
オークション落札者の名前があがる度に拍手が起こった。
今回のオークション用の豆を焼いてくれた人や、準備に奔走してくれた人たち。ありがとうございます。 |
別会場に移り、落札したバイヤーと、生産者との記念撮影。
こういうのってすごいことだよなぁ、とつくづく思う。
世界中からバイヤーが集まってきて、自分達が偽りなく欲しいと思ったコーヒー豆を、直接生産者から受け渡してもらう。
コーヒーを通じて、まさに人と人が繋がる瞬間。
そして、ここで受け渡されたコーヒーは海を越え、想いを込めて焙煎され、たくさんの人たちに手渡されていく。ストーリーとともに。
そんなイメージが雲のように広がって、鳥肌が立たずにはいられなかった。
記念撮影が終わると、僕は生産者といくつかの言葉を交わし、(英語が全く通じない)「また会いましょう」と握手をして別れた。
***
このオークションが終わった後、僕たちはバスに乗って、リオデジャネイロへと向かいました。2日間の観光。
記憶がだいぶ薄まってきているので、詳細は書くのは省きますが、一言で言うと「最高」でした。
写真を撮って頂いたので、良かったらご覧ください。
〜BRAZIL滞在 フォトギャラリ〜
サンパウロ
このお店では、セルフでエスプレッソを淹れることができる。 |
ナビゲータの女性とバイヤーの人たち。 |
何かを眺めるカリオモンズの伊藤さん。 |
とあるカフェにて。 |
目の前で抽出してくれる。 |
カッピング中。 |
カリブレーション中。 |
BSCAのスタッフの皆さん。 |
カッピング後に行われたプレゼンテーション。 |
農園にて。 |
ディナータイム前にプレゼン始める農園主たち。 |
農園内にあるカフェでコーヒー淹れました。 |
農園主たち。 |
農園主たち。 |
オークションが終わって。 |
リオデジャネイロ
モール内にあるコーヒーショップ。 |
けつ。 |
けつ2 |
リオのカフェにて。 |
FIN.
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